山陽リレーコラム「平井の丘から」

学内の版画から−  児玉 太一

掲載日:2018年11月30日
カテゴリ:こども育成学科

 本学の本館とE棟に展示している写真はデジタルでもアナログでもない、赤青黄の無数の網点によって表された版画作品である。恐らく、どちらの作品もシルクスクリーンという版画の一技法によって制作されている。イメージが写真で、かつ多くの方にとっては小中学校の美術教育で取り組まれる木版画の印象が色濃く残っているだろうから、一見してこの作品を版画とは思わないだろう。いずれも同じ作家の作品であると思われるが、残念ながらどなたの作品で、いつ、どこで、制作されたものであるのか私は与り知らない。ただ、シルクスクリーンは専門的な機材が必要で、複数名の協力が必要な大型作品であるから、恐らくは日本国内の版画工房で制作された作品であると推察している。

 版画技法は基本的に印刷術として始まり、高度な専門知識と機材が必要であった為、職人を介した分業制で、近代以降も専門の版画工房での制作が多かった。版画工房で現代美術という領域に限れば、国際的に有名なのは、ラウシェンバーグやホックニーなどの著名な作家の作品を手がけたアメリカのジェミナイ版画工房や、ジェミナイから独立したタイラーグラフィックスがある。ジェミナイを始めとするアメリカ型の版画工房は、作家との対話によって作品が形成され、版画という媒体での制作上のプロセスとアイデアを作家自身が経験しながら制作する。日本のデパートなどで販売される日本画や洋画などの版画の多くは版画を用いた絵画の複製物であるが、アメリカ型の版画工房では、版画によるオリジナルの表現であり、作家自身も絵の手法とは異なる表現や手法を求め、積極的に版画を制作した時代があった。日本にもこのような版画工房がいくつか設立されてきたが、現在においては市場の縮小や職人の高齢化、技法の流行の変遷等、複数の要因によって、残念ながら多くは業態を変えるか、廃業して、技術と経験も失われつつある。

 本学にある作品は版画としては大型のオリジナル作品で、日本の版画工房が次々に勃興した時期に制作された作品であろう。作家の作品と身体を通じ、異なる制作経験の接続から、新たなものを生み出す場として版画工房が機能していたことに、私自身は未だ強い憧れと関心を覚える。私も関西のいくつかの工房で貴重な経験を頂いた縁がある。いつか、職人や工房が蓄積した技術・経験を記し、後世にも残さなければと常々考えている。

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